最高裁判所第一小法廷 平成9年(行ツ)236号 判決 1998年2月12日
東京都千代田区二番町五番地五
上告人
諸享
東京都千代田区九段南一丁目一番一五号
被上告人
麹町税務署長 山内紀
右当事者間の東京高等裁判所平成九年(行コ)第八号相続税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成九年六月二六日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告人の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友 裁判官 大出峻郎)
(平成九年(行ツ)第二三六号 上告人 諸享)
上告人の上告理由
一、原判決は、以下の理由により相続税法第二十二条に違背した判決である。
イ、原判決の要旨
<1>被上告人が路線価方式で算出した価格は、千代田区二番町三―四に所在する公示地の平成五年一月一日付けの公示価格から求めた価格をを下回っているので、合法である。
<2>被上告人が路線価方式で算出した価格は、被上告人が(財)日本不動産研究所に依頼した不動産鑑定評価書の鑑定評価額を下回っているので、合法である。
との理由により、上告人の請求を棄却した。
ロ、公示価格について
<1>公示価格の意義と利用目的
地価公示法に於ける公示価格とは、正常価格のことであり、第二条第二項により正常価格とは土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格と定められている。
そして、公示価格は法律上次の七項目に限って利用目的とすると定められています。
(1)一般の土地の取引価格に対する指標の提供(地価公示法第一条の二)
(2)不動産鑑定士等の鑑定評価の規準(地価公示法第八条)
(3)公共用地の取得価格の算定の規準(地価公示法第九条)
(4)収用委員会の補償金額の算定の規準(地価公示法第十条)
(5)国土利用計画法による土地取引規制における価格審査の規準(国土利用計画法第十六条および第二十四条)
(6)国土利用計画法に基づく土地の買い取り価格の算定の規準(国土利用計画法第十九条および第三十三条)
(7)公有地の拡大の推進に関する法律に基づく土地の買い取り価格の算定の規準(公有地の拡大の推進に関する法律第七条)従って、確かに原判決のように公示価格を相続税法上の時価を算定する上で参考としたり、又は目安とすることは出来るかもしれませんが、法律上、公示価格は相続税法上の時価の算定の規準とは定められておりません。原判決では、公示価格を相続税法上の時価を算定する上で規準としておりますので、憲法第八十四条違反となるばかりでなく、相続税法第二十二条にも違背しております。
<2>公示価格の算定方法と問題点
甲第七十四号証国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一著「売買地価を見極める」及び甲第七十九号証不動産鑑定士及び税理士の鵜野和夫著「不動産の評価・権利調整と税務」のとおり、公示価格は次のプロセスを経て決定されます。
八月―九月 地価公示評価員等のミーティング
十月―十二月 売買実例の収集及び鑑定評価書の作成。二人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補が一つの公示ポイントについて甲第七十九号証三十、三十一ページのような鑑定評価書を作成する。
一月―三月 鑑定評価書の提出と国土庁の審査及び必要な調整
三月二十日頃 発表
大野幸一氏及び鵜野和夫氏共、グラフ・1のような地価急落時においては、公示価格には次のような問題点があると指摘している。
(1)地価公示を算定するための規準となる売買事例について
実勢価格が下げ相場の時は、売り物件は増えるが、買い手は様子眺めとなり、所謂「買い手市場」となる。従って、実勢価格は水面下げ取り引きされる一部の安目の売買実例価格が規準となったり、また土地売買が減少してしまうので、売買実例が無い場合には、仲介業者の「仲介見込み気配値」が規準となる。
一方、公示価格を算定するため担当の不動産鑑定士は一月から九月頃の売買事例を収集する。しかし、その際、公示価格は一般の土地の取引価格に対して指標を与えるのが目的であるので、中庸を得た売買事例を収集することとなる。従って実勢価格が下げ相場の時に指標となる一部の安目の売買事例はカットされることとなり、公示価格と実勢価格との間で開差が生ずる。
(2)変動率について
甲第七十四号証のとおり、都道府県ベースで四半期毎(一月一日、四月一日、七月一日、十月一日)に地価動向を調べ、年四回発表している。
不動産鑑定士は一月から九月頃の中庸を得た売買事例や、また売買事例が無い場合には鑑定評価書を書くことが出来ないので、やむを得ずかなり古い時点での売買事例を基に一月一日時点に時点修正して鑑定評価書を作成するが、その際は既に定められた地価動向調査の指数を参考としている。
地価動向調査は各都道府県が日本不動産鑑定協会へ委託して、それを地価公示を担当する不動産鑑定士が調査するものであるが、甲第七十九号証のとおり公示価格と同様の性質を有するものであり、公示地の不足地点と調査時点を補うものである。公示地は国土庁、地価調査基準地は各都道府県と管轄は違っているが、両者はお互いのバランスを取って評価決定され、評価の方法も同じである。
そして甲第八十号証のとおり、公示価格を算定するに当たっては予め変動率のレンジが定められ、それにそぐわない鑑定価格は手直しされてしまうこととなります。国の名の元に値付けされる公示価格は談合価格にすぎません。甲第七十九号証のとおり不動産鑑定士及び税理士の鵜野和夫氏は、公示価格はある程度に定着した価格水準を公示するものであり、価格の激変期には遅行性を持つという性格があり、そのため時価との開差となって表れる。
公示価格の評価作業は、その価格時点(一月一日)の前後で行われるが、比準価格を求める基礎となる取引事項は直近時点のものを多数収集することは実務上困難であり、取引事例の多くは価格時点の三から六カ月ぐらい以前のものを参考とせざるを得ない。従って、地価の下落しつつある状況下では取引が激減することもあって高めに評価されるという傾向になりがちな性格を持っていると規定しており、甲第七十四号証および甲第八十一号証税理士及び不動産鑑定士森田義男著「怒りの路線価物語」のとおり、通常2年程度遅行すると言われている。
この公示価格と時価が大幅に乖離しているという点については、国土庁でも充分認識しており、甲第八十二号証日刊不動産経済通信特集号通巻第五十六号のとおり、国土庁土地局長原隆之氏は平成六年度の公示価格についての解説の中で、土地収用を円滑に誘導するために時価と乖離した高めの公示価格を作為的に設定しているとコメントしている。
また甲第八十三号証明海大学不動産学部教授長谷川徳之輔著「断末魔の地価」のとおり、地価は平成二年十月以来大きく下落しているのに、公示価格は政府の政策によって作為的に高止まりさせていると指摘している。
<3>時価の定義と公示価格との関係
甲第七十九号証のとおり不動産鑑定士及び税理士の鵜野和夫氏は、一般の人がこれくらいの価格なら売ってもいいな、買ってもいいなということで売買の成立する価格を時価と定義している。
甲第八十一号証のとおり不動産鑑定士及び税理士の森田義男氏は、時価とは売りに出して売れる(最高の)値段、売りに出して売れるであろう価格帯の真ん中の値と定義している。
相続税法上の時価の定義とは、客観的な交換価値、すなわち不特定多数の当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価格と定義されており、これは鵜野和夫氏や森田義男氏のいう時価の定義と同じである。つまり、その価格ならばいつでも正常に他の財貨と交換できる価格といえる。
地価公示法における正常な価格の定義とは、土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引に於いて通常成立すると認められる価格としており、原判決では同一の価格を指向する概念と判断したが、これは甲第七十四号証のとおり地価の安定期については時価と公示価格はほぼイコールであるが、今回のバブル崩壊のような地価の急落期においては前述のとおり、公示価格の持つ性格やそれを算定するための取引事例のピックアップ方法、予め変動率のレンジが定められている等の理由により開差が生じるものであり、通常二年程度遅行すると言われている。
従って、今回のような急激な地価の下落局面では公示価格と時価は同一の価格とはなりませんので、原判決は相続税法第二十二条に違背した判決であります。
<4>時価の把握方法について
甲第七十四号証「売買地価を見極める」第二章のとおり、国土庁地価公示評価員および不動産鑑定士の大野幸一氏は、時価の把握方法は、ある一つの公示地又は基準地の実勢価格を求め、実勢価格÷公示価格(又は基準地価格)を実勢倍率として、対象となる公示地の公示価格に実勢倍率を掛ければ簡単に時価が求められるとしている。
さて、千代田区神田司町2―7―6基準地、千代田五―十九の商業地の基準地価格および時価の推移は甲第七十四号証九十ページの通りであり、そこから実勢倍率を求め、千代田区二番町三―四、千代田五―十五公示地(商業地)に適用して時価を求めてみると表・1のとおりであり、グラフ化するとグラフ・1のとおりとなる。
平成四年十月三十日時点の千代田区二番町5―5に所在する宅地における時価は表・1のとおり平成四年一月一日時点と平成五年一月一日時点の実勢価格を按分して平成四年十月三十一日時点に割り戻し、それに奥行低減補正率(0・93)と容積調整率(0・979)を掛ければ時価が求められることとなり、その結果は一平方メートル当たり8、369千円であります。控訴人の申告額は一平方メートル当たり8、333千円でありますので、充分許容範囲内に入っており、相続税法第二十二条に対し、合法な申告であります。
<5>千代田区二番町3―4公示地に於ける平成五年一月一日付けの公示価格が時価と逆転した理由について
甲第八十四号証平成六年八月八日付け異議決定書のとおり、当初被上告人は次の二つの取引事例から求められた価格は、被上告人が路線価方式で算出した価格を上回っているから適法であると主張していた。
取引事例・A 千代田区四番町四―三所在。一〇一八・四七m2。
原因は平成三年八月三十日売買に基づく平成四年六月四日所有権移転取引。
取引事例・B 千代田区二番町九―十二所在。一三二・四二m2。(登記簿上の面積)
原因は平成四年八月二十一日売買に基づく平成四年十月二十日所有権移転取引。
しかしながら、甲第八十五号証審査請求書のとおり上告人がこれらの取引は関連会社間及び親子間の取引事例であり、相続税法上の時価を求める上で不適切であり棄却されるべきであるとした所、甲第一号証裁決書のとおり国税不服審判所もこれを認め、原処分庁(被上告人のこと)がこれら二つの取引事例から算出した価格は相続税法上の時価を判断する規準とはならないとして、これを棄却した。
また、これらの類する取引事例は他にもあり、例えば次のような取引事例が挙げられる。
取引事例・一 千代田区二番町所在。五七二・二八m2。平成五年一月十三日(契約日)取引。六、五一七千円/m2。麹町駅の西方約百m。南東側約七mの区道に接する一方路。間口四m、奥行き約四十五mの袋地状画地。住居地域(六十、四百)。防火地域。
取引事例・二 千代田区四番町六所在。建付地。三二八・三九m2。平成五年二月三日(登記原因日)取引。
六、九七三千円/m2。
市ヶ谷駅の南方約二百二十m。北側約四mの行き止まり私道に接する一方路。間口十六m、奥行き二十一mのほぼ長方形。住居地域(六十、四百)。防火地域。一部商業地域(八十、六百)。防火地域。
これらの取引は地元の不動産会社が事業拡張目的で隣地を買収したり、また大手ディベロッパーが一団の土地にするために隣地を買い漁った取引であり、相続税法上の時価を算出する上での規準とはならない。また乙第一号証被上告人の鑑定評価書の中にも取引事例・4として地元の保険会社が強引に隣地を買収した取引事例が記載されていたが、これも相続税法上の時価を算定する上で不適切な取引事例であるので棄却されるべきである。
このように平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四公示地の公示価格を算定する基となった取引事例は、相続税法の時価の定義である客観的交換価値、すなわち不特定多数の当事者間に於いて自由な取引が行われるとした場合、通常成立すると認められる価格を求めるための取引事例は影をひそめ、企業の決算対策上の親子間取引や関係会社間取引、事業の拡張を狙った隣地買収というような特定少数の当事者間の相対取引ばかりでありました。
平成六年度には消滅してしまいましたが、平成四年度には国土利用計画法の中に監視区域という制度があり、百m2以上の土地取引の場合、届けねばならず、これらの親子間取引や関係会社間取引や隣地買収に於いてでも不動産鑑定士が公示価格や近隣の取引事例や物価変動率を考慮して鑑定評価書を作成し、届け出れば東京都知事は許可せざるを得ず、取引は可能であり、また何ら違法な取引とはなりませんが、たまたまその土地を喉から手が出るほど欲しい買い手が存在して売買が成立した場合、国土利用計画法で定める届け出価格は許可基準の上限一杯で設定される確率が極めて高く、その買い手以外の残りの全部の人たちにとっては、なんでこのような高値で売買されたのか唖然としてしまうこととなります。甲第八十六号証のとおり、このような鑑定評価書はバブルを支えた不動産鑑定として世間の批判を浴びております。
グラフ・1のようにバブル崩壊後地価が急落し、土地から生み出されるキャピタルゲインや収益性が期待しずらい環境となりますと、売り手は多いけれど買い手は様子見気分を強めますので取引事例は極端に細くなり、また仮にあったとしても前述のような親子間取引や関係会社間取引や隣地買収のような取引ばかりとなってしまいます。
不動産鑑定士は仕方なくそれらの取引価格を基に鑑定額を算出しますので、どうしても高止まりし易い傾向となってしまいます。次の年もまたその次の年もそのような事が繰り返されますので、下方硬直性がみられ、時価と公示価格との間に大幅な開差が生じてしまうこととなります。
また公示価格を算定する上で使用する鑑定評価書は甲第七十九号証不動産鑑定士及び税理士の鵜野和夫著「不動産の評価・権利調整と税務」三十ページ記載のとおり簡略化した形式のものであります。
算出方法は日本不動産鑑定協会に保管してある取引事例の中から中庸的な取引価格の事例を抽出し、様々な補正をして比準価格を導き出すものですが、甲第八十七号証土地価格比準表のとおり事情補正につきましては明確な規準は存在しておりません。地価公示法においては公共用地の収用等の関係から特に不特定多数の当事者間の取引事例とは限定していないことから、前述のような特定少数の当事者間の相対取引の事例を規準として公示価格を算出しても何ら差し支えなく、また記載例のとおり事情補正はほとんど行われていないのが実情です。また収益還元法においても敷地に帰属する純収益について何ら根拠が示されておらず、ほとんど取引価格比較法による価格に依存しているのが実情です。
仮に事情補正を的確に行って取引価格比較法による価格を導き出したとしても、一月一日、四月一日、七月一日、十月一日付けで発表される都道府県基準地に於ける変動率は既に定められており、一月一日付け公示価格に対する変動率の枠もレンジが既に設定されている関係から、甲第八十号証のとおりそこから外れた鑑定評価書は採用されず、手直しを余儀なくされることとなり、結局公示価格と時価との間に開差を生じさせる結果となってしまいます。従って、千代田区二番町3―4公示地に於ける平成五年一月一日付けの公示価格は、相続税法第二十二条に定める時価の規準とはなりませんので、原判決は相続税法第二十二条に違背した判決であります。
<7>路線価について
相続税法における時価の定義とは、財産評価基本通達にもあるとおり、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格」を言います。
地価公示法における時価の定義とは、その立法目的が一般の土地の取引価格に対する指標と公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定に資することであるからして、第二条の第二項で「土地について自由な取引が行われるとした場合におけるその取引において、通常成立すると認められる価格」と規定されており、相続税法上の時価と異なる点は「不特定多数の当事者間で」という部分が抜けていることにあります。つまり公示価格は土地取引について、「不特定多数の当事者間における競争取引」も「特定少数の当事者間における相対取引」も全て包括したものが対象となっています。
これは、例えば事業の拡張を狙って隣地を買収しようと計画したり、企業が決算の改善を狙って、その所有する土地を子会社へ売却して益出しようと計画する時などは、国土利用計画法に従って公示価格や近隣の取引事例や物価変動率を基に届出価格を設定し、都道府県知事の許可を受ければ、その届出価格で取引は可能となります。
さて公示価格は、2人以上の不動産鑑定士や不動産鑑定士補の鑑定評価額を土地鑑定委員会が審査し、必要な調整を行って判定されますが、不動産鑑定士や不動産鑑定士補が取引事例比較法で鑑定評価額を求める際、上述のような特定少数の当事者間における相対取引も取引事例として採用しても何ら差し支えありません。逆に、公示価格の定義を相続税法上の時価の定義と同じ、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格」と定めてしまいますと、土地収用は特定少数の当事者間における相対取引ですので、割増金を支払わねばならなくなります。
相続が発生した場合、たまたま運よく、例えば隣地の地主が事業を拡張しようと計画して相続人の土地を買収しようとした場合には、公示価格が取引価格の指標となり得ますが、そのようなことがない場合には、相続人はその土地の売却を不動産仲介業者へ依頼し、不動産仲介業者はその土地を首都圏不動産流通機構へ登録し、広く買い手を募って、競争によって価格を決めることとなります。
そこで相続税法における時価の定義は、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格」となっていることから、国税庁は一般の土地の取引価格に対する指標や公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定が目的である公示価格の八掛けが、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格」であろうと便宜的に推定し、路線価として定め、それは相続税法に対し適法であろうと推定し、国税庁が独自に作成した財産評価基本通達として、相続税の財産評価額を算定しています。
このことは、例えば甲第九十一号証納税通信第二三四六号囲み記事のとおり、相続人が近隣の土地の取引事例から求めた価格を公示価格相当額として、その七掛けの価格で更正の請求をした場合でも、税務当局はこれを容認していることからも伺えます。
従って、今回の事件の場合、前述のとおり基準地千代田五―十九の商業地、千代田区神田司町2―7―6の時価の下落率から求めた平成四年十月三十日時点に於ける千代田区二番町五―五に所在する宅地の価格は一平方メートル当たり8、369千円でありますので、これを公示価格相当額とすると、路線価相当額はその八掛けである一平方メートル当たり6、695千円となり、当然、申告額である一平方メートル当たり8、333千円は容認されてしかるべきであります。
また、このような考え方は税務署の上級官庁である大蔵省も同じ考えをしております。つまり、現在、住宅金融専門会社が抱える不良債権の処理が問題となっておりますが、甲第九十二号証平成八年二月十四日付け日本経済新聞記事のとおり大蔵省は住専七社に対する立ち入り調査で、不良債権の担保不動産を路線価で評価し、三段階に分類しました。
回収不能債権……債権簿価のうち路線価を上回る部分
回収困難債権……路線価の七掛けと路線価の差額
回収懸念債権……路線価の七掛け
大蔵省は路線価の七掛けと路線価の差額を回収困難債権と位置づけ、事実上回収を諦めております。また、路線価の七掛けを回収懸念債権としておりますが、ここからもかなりの損失を覚悟しております。
つまり、大蔵省でさえ路線価の七掛け程度でしか換金できないと認識しているわけであり、当然、当方の申告額は容認されてしかるべきであります。
通常、相続財産の評価は路線価方式によって行われますが、これは日本全国一律に都下も区部も都心部も、商業地も住宅地も味噌も糞も一緒にして、公示価格の八掛けとした極めて便宜的な方法であり、相続税法上の時価に当たらずとも遠からずかも知れませんが、厳密には相続税法上の時価とは言えません。そこで国税庁はその逃げ道として、財産評価基本通達の第六条で「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する」とわざわざ規定していることから、国税庁自身も財産評価基本通達は絶対的なものではなく、単なる目安程度の価値しかないことを認めているくらいです。
さて平成三年度までは路線価は公示価格の七掛けであり、平成四年度から八掛けになりました。平成四年度から八掛けになったということは、それ以前には「不特定多数の当事者間における競争取引」でも公示価格の八掛けで売却することができたというデータがあり、その実績に基づいて八掛けに決定したと思いますが、平成三年度から始まり今日に至ってもなお下げ止まる兆しをみせない都心商業地において、平成四年十月三十日時点で公示価格の八掛けで売却が可能かどうか甚だ疑問です。
相続税法第二十二条に定める時価の定義は、客観的な交換価値、すなわち売却可能上限額と定められていることから、仮に百歩譲って、公示価格の八掛けの路線価によって売却が可能であると仮定した場合の、千代田区二番町3―4に所在する公示地の平成四年一月一日付けと平成五年一月一日付けの公示価格と路線価の関係はグラフ・2のとおりとなります。相続開始時点は平成四年十月三十日でありますので、公示価格の評価の危険性を織り込み、安全率(0.8)を加味した路線価方式による評価額が段階的に下落したと仮定したとしますと、グラフ・2のとおり、平成四年十月三十日時点では一平方メートル当たり九百五十八万六千円となります。
千代田区二番町5―5に所在する宅地の場合、奥行きが三十三メートルあり、また用途地域が商業地域と住居地域にまたがっておりますので、これに奥行き低減補正率(0.93)と容積調整率(0.979)を加味しますと、千代田区二番町5―5に所在する宅地の一平方メートル当たりの評価額は、グラフ・2に記載のとおり、八百七十二万七千円となります。
「不特定多数の当事者間における競争取引」も「特定少数の当事者間における相対取引」も全て包括した公示価格の八十%が相続税法上の時価であると仮定したとしても、評価額は一平方メートル当たり八百七十二万七千円以下でなければなりません。
国税庁は相続財産の評価に当たり、公示価格の評価の危険性を織り込み、その六掛けとか、その七掛けとか、その八掛けとか、常に公示価格を割り引いた形で路線価として定めてまいりましたが、もし原判決のとおり相続税法上の時価は公示価格を規準とするならば、国税庁は路線価方式による評価方法を定めて以来、今日に至るまで相続税法第二十二条違反を繰り返してきたことになります。
昭和五十年代初頭の赤字国債発行以来、国家財政は逼迫しており、また租税は国家財政の基盤をなすものでありますからご聡明な国税当局がそのような相続税法違反を繰り返すハズがなく、やはり相続税法に定める時価は公示価格を何割か下回るべきものであります。従って、このことからも原判決は相続税法第二十二条に違背した判決であります。
また、もし原判決のとおり公示価格が相続税法上の時価であるとしたら、路線価方式による評価額が時価を上回るといういわゆる逆転現象は起きなかったことになりますが、付属書類・1から付属書類・20のとおり、現実の社会現象として路線価方式による評価額が時価を上回るという逆転現象が発生致しましたので、この点からも原判決は相続税法第二十二条に違背した判決であると言わざるを得ません。公示価格や路線価などの公的価格が的確に時価を反映していないからこそ、このような逆転現象が起きたのであり、原判決のように公示価格が時価であれば、このような現象は決して起こり得ません。
上告人は、相続税法第二十二条に「相続財産の価額は時価による」と定められていることから、時価とはその時の価格という意味であり、実勢価格こそが的確に時価を表していると思っておりますが、もし原判決のとおり時価とは公示価格のことであるとしたら、それぞれの年度の一月一日付けの公示価格を結んだグラフ・2のaの線に基づき、相続開始時点に応じて比例配分し、時価を求め課税するべきであり、また納税者や税務当局の無用の混乱を避けるためにも、相続税法や地価公示法などの法律上、「相続税法第二十二条に定める時価とは公示価格である」と明記し、定めるべきであります。しかし現実には、甲第九十三号証納税通信第二四三七号囲み記事のとおり、東京国税局管内では平成四年度以降約一千八百件の時価評価による申告があり、甲第九十一号証納税通信第二三四六号囲み記事のとおり、路線価方式による評価額を0.8で割り戻せば公示価格相当額が求められるところ、相続人が近隣の土地の取引事例から求めた価格を公示価格担当額として、その七掛けの価格で更正の請求をした場合でも、請求どおり税務当局はこれを是認しておりますので、公示価格を時価とする考え方は税務当局においても否定されております。
ハ、不動産鑑定評価額について
<1>原判決の要旨
原判決では、被上告人が(財)日本不動産研究所へ依頼した鑑定評価書については、
・収益還元法に於ける支払い賃料一平方メートル当たり一〇、〇〇〇円は適切である。
・取引事例比準法に於ける二番町及び平河町二丁目の取引事例については、それぞれ一〇%、二〇%の事情補正を行っており、その補正率が過少であるとは言えない。
・麹町二丁目の事例については隣地買収の事例であるが、たとえ事情補正を行っていなくても、全比準価格の中で最も低額であるので、被告鑑定が不当に高額に査定されたとは言えない。
・土地の売買後も売主と買い主との間で継続的な商取引の関係にある九段三丁目の取引事例についても、正常価格を越える多額の賃料を収受している等の証拠はないし、他の取引事例から比較してみても特に高額ではないので問題ない。
・被告鑑定を行った日本不動産研究所の理事長が税務署出身者であっても、被告と鑑定人との間に特に利害関係はないし、そのことで鑑定の信用性が損なわれることはない。
との理由で容認し、上告人が不動産鑑定士の高橋久長氏へ依頼した鑑定評価書については、
・取引事例Bについて面積が狭小であることに基づく標準化補正を行っていない。
・時点修正率について、周辺都基準地価格の過去一年間の下落率(十七から十八%)及び地価公示価格の下落率(約二十%)を大幅に上回る月間マイナス2.5%(年間マイナス30%)を設定し、その具体的根拠を特段示していない。
・収益還元法について月額賃料を一平方メートル当たり五千五百円から五千七百円としているが、低額にすぎる。とし、被上告人の鑑定の方が信用性に優れるとして、上告人の鑑定を却下した。
<2>収益還元法について
甲第九十四号証不動産鑑定士宮ヶ原光正氏著「不動産鑑定評価要説」の中の収益還元法によれば、総収益の算定に当たっては、対象不動産が現に稼働している賃貸用不動産の場合には、総収益は当該不動産の賃貸収入等から求めるが、対象不動産が更地であるものとして、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建設を想定する場合の総収益は、当該土地及び建物等の複合不動産が将来生み出すであろう総収益を予測し、適正に求めなければならないとしておりますので、被上告人の鑑定は平成四年度当時の賃料相場を採用しており、将来の賃料相場を見込んで鑑定しておらず、間違った判断をしていることとなります。
バブル崩壊後、賃料相場が右肩下がりに急落している状況においては、平成四年十月三十日から建設期間を考慮した平成六年七月頃の相場が妥当であり、賃料相場は一平方メートル当たり八千円(坪当たり二六、四〇〇円)が上限となります。
甲第六十九号証及び甲第七十一号証のとおり、賃貸用事務所の場合、一般的にワンフロアーの床面積によって賃料が異なるものである。この場合ワンフロアーの床面積とは、基準階の場合で、エレベータ、エレベータホール、内階段、廊下、トイレ、湯沸かし室等を除いた有効床面積のことを指している。
被上告人の鑑定は直接法、上告人の鑑定は間接法により収益還元価格を求めたものであるが、乙第一号証被上告人の鑑定の場合の基準階の床面積は三七八・一四m2であり、レンタブル比を八十%として、有効床面積は三〇二・五一m2(九一・六七坪)である。
従って、ワンフロアーが五十坪以上百坪未満の中型ビルの分類項目に属することとなり、番町・麹町に於ける平成六年七月頃の月額賃料は甲第七十一号証のとおり一平方メートル当たり七、六一六円(坪当たり二五、一三四円)から一平方メートル当たり六、八六三円(坪当たり二二、六四九円)が適正相場でありますので、上限値は一平方メートル当たり八千円となります。
なお、適正賃料を一平方メートル当たり八千円とした場合の直接法による収益還元価格は、別紙・一のとおり総額二十二億円弱となります。
上告人の鑑定は間接法を採用しており、地下二階付き五階建て店舗・事務所ビルを想定し、延べ床面積は七四七・三二m2であります。従って、ワンフロアーの床面積は一〇六・七六m2であり、レンタブル比を被上告人の鑑定と同じ八十%とすると有効床面積は八五・四一m2(二五・八八坪)となります。
これを、甲第九十五号証三幸エステート(株)作成の九十四年オフィスレントデータに基づき平成六年度の飯田橋・九段地区に当てはめてみますと、二五・八八坪ですので、小型ビルに相当し、適正月額賃料は一平方メートル当たり五、九四五円(坪当たり一九、六二〇円)から一平方メートル当たり五、一二八円(坪当たり一六、九二三円)の間となります。
従って、上告人の鑑定においては当該土地及び建物等の複合不動産が将来生み出すであろう総収益を的確に予測した数値で鑑定を行っており、何ら問題はありません。
従って、被上告人の鑑定の賃料一平方メートル当たり一〇、〇〇〇円は適切であり、また原告鑑定の賃料一平方メートル当たり五千五百円から五千七百円は低額であり、不適切であるとした原判決のの判断には明らかに重大な考え違いや事実誤認があり、間違った判断をしております。
<3>鑑定人について
乙第一号証(日本不動産研究所作成の鑑定評価書)によると、鑑定を依頼した東京国税局と(財)日本不動産研究所との間には特別の利害関係や縁故関係はないとしているが、(財)日本不動産研究所の監督官庁は大蔵省であります。また歴代の理事長は税務署出身者でありますので、税務署が縁故関係のある(財)日本不動産研究所へ路線価方式で算出した価格を上回る鑑定評価書の作成を依頼し、(財)日本不動産研究所はそれに応えてバブルを支えた不動産鑑定として現在世間の批判を浴びているバブル時代の遺物のような、およそ相続財産の評価の基準としては不適切な鑑定評価書(税務署に依頼された鑑定評価書なので、以下「税務署鑑定」という)を故意に捏造したことは明白であります。
<4>乙第一号証(税務署鑑定)に於ける売買事例比較法の違法性について
甲第九十四号証不動産鑑定評価要説によると、正常価格とは市場性を有する不動産について合理的な市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格と定義されています。この場合において、合理的な市場とは市場統制等がない公開の市場で、需要者及び供給者の売り急ぎ、買い進み等特別の動機によらないで行動する市場をいうと定義されています。
つまり合理的市場とは、不純な要素を一切除外し、投資対象会社の収益性や将来性等の純粋な長期的投資採算性による投資判断のみによって形成される取引市場を指しているものであり、その土地が単独で有する使用価値や収益性の反映としての経済価値をベースに取引が成立する純粋の合理的市場を指しているものであります。
また公開の市場とは、少なく共、売り主が宅地建物取引業者と土地の売却について媒介契約を締結し、業者が広告等により一般に公開して買い主を探し、売買契約の成立に向けて尽力する形態を指すと解釈されます。
広告等とは、新聞の折り込み広告等のように広く一般大衆の目に触れる広告とか、レインズなど建設大臣の指定する流通機構への登録や甲第七十三号証のように売り希望のパンフレットを業者間へ蒔くなどして購入意欲があると推察される見込み客を対象として啓蒙運動を展開して、業者が売り主と特別の利害関係を持たない不特定多数の第三者の買い主を募集する行動と解釈されます。
以上が不動産鑑定基準に定める正常価格の考え方であり、これは相続税法上の時価の定義である客観的交換価値、つまりその価格ならばいつでも正常に他の財貨と交換できる価格と同義語であり、鵜野和夫氏や森田義男氏のいう時価の定義である、一般の人がこれくらいの価格なら売ってもいいな、買ってもいいなということで売買の成立する価格とか、売りに出して売れる(最高の)値段と同義語であります。
従って、甲第九十四号証不動産鑑定評価要説の通り、取引事例は次の五つの要件を全て満たしていなければならないと規定しています。
・近隣地域又は同一需給圏内の類似地域に存在すること。
・取引事例に係る取引等の事情が正常なものと認められるものであること。又は正常なものに補正することができるものであること。
・時点修正が可能であること。
・地域要因及び個別要因の比較が可能であること。
・取引事例は統制、制限、圧力等が加えられたものではなく、かつ相当の期間、市場に存在したものであることが必要とされ、また売り手と買い手が市場の事情に精通し、かつ売り手と買い手のいずれもが特別の事情を持たないで取引をすること。
乙第一号証(税務署鑑定)に記載された四件の取引事例比較法で求めた価格が、この正常価格の考え方や行動の仕方に適合しているかどうかがキーポイントでありますが、四件共、市場に存在したという形跡は全くなく、またその他の要因についての検証結果は次のとおりとなりました。
・九段南三丁目の取引事例について
本取引はバブル期末期の平成二年から平成三年にかけて行われた取引であり、地価上昇期待の余韻が色濃く残っていた時代に締結された取引であります。従って、バブル崩壊後、底値が見えない程地価が急落していた平成四年十月頃の本事件宅地の価格を算定するための取引事例として引用するのは著しく不適切であります。
また本取引は、不動産取引の常識である売り手と買い手が決裁終了後二度と顔を合わせることがないという一過性の取引ではなく、売買契約締結と同時に転貸借承諾付き賃貸借契約を売主と買い主との間で締結した取引であり、従って買い主の方が特別の動機を持っていたので正常な取引であるとは言えない。
本土地には甲第十七号証写真のような事務所ビルが建設され、甲第十八号証及び甲第十九号証のとおりテナントの募集が開始されたが、別紙・2「乙第一号証 九段三丁目の事例の収益還元価格」のとおり募集開始時の賃料及び敷金をもってしても土地に帰属する収益を得ることは出来ず、これは市場の事情に精通しない買い主が先行きに対する過度に楽観的な見通しから取引に応じたものであるか、又は買い手が不動産に対し明らかに知識や情報が不足している状態において過大な取引をしたものであるかのいずれかであり、従って不動産鑑定評価基準に定める正常価格であるとは言えず、相続税法上の時価を評価する基準としては著しく不適切であります。
百歩譲って仮に取引事例として事情補正できたとしても、不動産鑑定評価基準及び甲第八十七号証土地評価比準表には明確に事情補正の基準を指し示しておらず、いきおい担当不動産鑑定士の主観によって決定されることとなり、今回の事件のように明白に被上告人と被上告人の子飼いの不動産鑑定士との間に特別の利害関係や縁故関係のある場合には、乙第一号証のとおり、このような取引事情は全く反映されません。
甲第九十六号証国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一著「売買地価を見極める」のとおり、売買実例価格は十タイプあり、高値の売値に買い手が買い上がって成談した場合や仲介業者に乗せられて成談した場合や特定物件を買い進んで買収した場合は、相場の二十五パーセント以上になるとのことであり、本取引事例に係る事情補正率を三十パーセントとすると、事情補正後の価格は一平方メートル当たり九、四五五千円となります。
また時点修正率をグラフ・1に基づき時価を基にした値にしますと、平成三年十月から平成四年十月までの時点修正率は九、一九二÷一三、九五九となり、従って推定価格は一平方メートル当たり六、二四〇千円となります。これに個別補正及び地域要因補正を行うと、別紙・3「税務署鑑定の取引事例比較法の修正値」のとおり一平方メートル当たり八、二一一千円となります。
・麹町二丁目の事例について
本取引は、わずか64m2の土地を何と十億六千万円で隣の所有者が買収した典型的な隣地買収の取引であり、甲第九十四号証不動産鑑定評価要説の通り限定価格の範疇に属するものであります。
不動産鑑定評価基準によれば、正常価格とは不動産が単独で有する使用価値や収益性を基にして評価するものであると規定しておりますので、例えば本土地に事務所ビルを建設して収益性の確保を図った場合を考えてみますと、九段三丁目の事例と同様に土地に帰属する収益は当然0となってしまいます。
甲第九十四号証不動産鑑定評価要説によれば、隣地買収による取引事例は正常価格を求める上で基準とはならないと規定しており、また正常なものに補正することが出来るものは基準としてもよいとはなっているものの、単独で収益性を評価した場合の土地に帰属する収益還元価格が0であっては、当然補正することが出来る取引事例とは言えず、相続税法上の時価を評価する上での基準としては著しく不適切であり、取り下げられるべきであります。
百歩譲って仮に取引事例として事情補正できたとしても、不動産鑑定評価基準及び甲第八十七号証土地評価比準表には明確に事情補正の基準を指し示しておらず、いきおい担当不動産鑑定士の主観によって決定されることとなり、今回の事件のように明白に被上告人と被上告人の子飼いの不動産鑑定士との間に特別の利害関係や縁故関係のある場合には、乙第一号証のとおり、このような取引事情は全く反映されません。
甲第九十六号証国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一著「売買地価を見極める」のとおり、売買実例価格は十タイプあり、買収がらみの売買実例価格の場合、例えば隣地を高値で買収したり、特定物件を買い進んで買収した事例の場合、正常価格の二割りから四割り増しになるとのことであります。
従って、平均をとって三割り増しとすると、事情補正後の価格は一平方メートル当たり一二、七六九千円となります。
また時点修正率をグラフ・1に基づき時価を基とした値にしますと、平成三年十二月から平成四年十月までの時点修正率は九、一九二÷一三、二三四となり、従って推定価格は一平方メートル当たり八、八一〇千円となります。これに個別補正と地域要因補正を行うと、別紙・3「税務署鑑定の取引事例比較法の修正値」のとおり一平方メートル当たり八、〇〇九千円となります。
・平河町二丁目の事例について
本取引は買い進みの事例でありますが、不動産鑑定評価基準及び甲第八十七号証土地評価比準表には事情補正の明確な基準は存在せず、税務署子飼いの不動産鑑定士によって恣意的に一〇〇/一二〇と定められました。
しかし甲第九十六号証国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一著「売買地価を見極める」のとおり、特定不動産の買い進みの場合には、正常価格の二割りから四割り増しとのことであり、平均をとって三割り増しとすると、事情補正後の価格は、一平方メートル当たり八、八五六千円となります。
また、時点修正率をグラフ・1に基づき時価を基にした値にしますと、平成四年三月から平成四年十月までの時点修正率は九、一九二÷一二、〇二二となり、従って推定価格は一平方メートル当たり六、七七五千円となります。
乙第一号証(税務署鑑定)によると、規模が大きいことによってマイナス5減額しておりますが、甲第九十四号証不動産鑑定評価要説によれば、東京都心部のように高度利用が可能で需給関係の不均衡が著しい地域では大規模画地の場合、稀少性の面から取引価格が高くなる場合があると規定しています。
これは甲第六十九号証及び甲第七十一号証のとおり、賃貸ビルの場合、基準階の有効床面積が二百坪(六六〇m2)以上の大規模ビルの方がコミニュケーションコストが低く、使い勝手が良いことから高めの賃料を取ることができることによっても証明されます。本物件は敷地面積が二、五〇五m2で、建蔽率が六十%ですので、一、五〇三m2(四五五坪)の事務所ビルを建設することが可能です。レンタブル比を八十%とすると、基準階の有効床面積は三六四坪となりますので、大規模ビルの基準階の床面積基準である二百坪以上という条件を充分クリアーしております。本事件に係る物件の有効床面積は乙第一号証(税務署鑑定)のとおり中規模ビルに相当しますので、甲第七十一号証から大規模ビルとの賃料格差を求めますと、三五、三九七÷二五、一三四=一・四〇八から二九、二五〇÷二二、六四九=一・二九となりますので、平均をとって一・三五倍とした時の画地条件に係る個別的要因の修正率は一〇〇/一三二となります。従って、別紙・3「税務署鑑定の取引事例比較法の修正値」のとおり一平方メートル当たり六、八四三千円となります。
・二番町の事例について
本取引は、千代田区二番町五―一及び同九―九を既に所有していた第一火災海上相互保険会社(以下、甲という)が事業拡張目的で、同九―十一、同九―十三に所在する宅地を次々に買収し、最後に九―一に所在する土地を国友喜太郎氏から買収したものであり、甲第九十四号証不動産鑑定評価要説の通り限定価格の範疇に属するものであります。
この土地は甲第九十七号証地積測量図のとおり間口二・四m、奥行き約二十四mの旗竿地であり、この土地は甲は何と総額約十一億円で国友喜太郎氏から買収した。
不動産鑑定評価基準によれば、正常価格とは不動産が単独で有する使用価値や収益性を基にして評価するものであると規定しておりますので、例えば本土地に事務所ビルを建設して収益性の確保を図った場合を考えてみますと、九段三丁目の事例と同様に土地に帰属する収益は当然0となってしまいます。
甲第九十四号証不動産鑑定評価要説によれば、隣地買収による取引事例は正常価格を求める上で基準とはならないと規定しており、また正常なものに補正することが出来るものは基準としてもよいとはなっているものの、単独で収益性を評価した場合の土地に帰属する収益還元価格が0であっては、当然補正することが出来る取引事例とは言えず、相続税法上の時価を評価する上での基準としては著しく不適切であり、取り下げられるべきであります。
百歩譲って仮に取引事例として事情補正できたとしても、不動産鑑定評価基準及び甲第八十七号証土地評価比準表には明確に事情補正の基準を指し示しておらず、いきおい担当不動産鑑定士の主観によって決定されることとなり、今回の事件のように明白に被上告人と被上告人の子飼いの不動産鑑定士との間に特別の利害関係や縁故関係のある場合には、乙第一号証のように一〇〇/一一〇という事情補正が盛り込まれることとなります。
甲第九十六号証国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一著「売買地価を見極める」のとおり、売買実例価格は十タイプあり、買収がらみの売買実例価格の場合、例えば隣地を高値で買収したり、特定物件を買い進んで買収した事例の場合、正常価格の二割りから四割り増しになるとのことであります。
本物件の場合は周囲の買収を終えた最も肝心の真ん中の土地であり、四割増しが適当と考えられますので、事情補正後の価格は一平方メートル当たり六、八七五千円となります。また、時点修正率をグラフ・1に基づき時価を基とした値にしますと、平成四年七月から平成四年十月までの時点修正率は九、一九二÷一〇、四〇五となり、従って推定価格は一平方メートル当たり六、〇五〇千円となります。
また乙第一号証(税務署鑑定)によると本物件は袋地ということでマイナス四十減額しておりますが、甲第八十七号証土地評価比準表のとおり、画地条件に掛かる補正は、本物件の場合、袋地ですので、間口狭小〇・九および不整形地〇・九を準用して補正すべきであるとなっており、従って画地条件に掛かる補正率は〇・八一となります。従って、総合修正率は一〇〇/八四となりますので、別紙・3「税務署鑑定の取引事例比較法の修正値」のとおり一平方メートル当たり七、二〇二千円となります。
<5>上告人の鑑定の合法性について
・取引事例Bの面積が狭小であることに基づく標準化補正について
上告人の鑑定における取引事例Bの土地の面積は六二・二四m2であり、税務署鑑定における麹町二丁目の事例の面積は六四m2であり、ほぼ同じであります。
税務署鑑定においては画地条件に係る個別的要因として規模が小さいことによりマイナス5補正しておりますので、この数値をそのまま上告人の鑑定の取引事例Bに当てはめ、比準価格を求めてみますと、七、六四八×一〇〇÷九五ですので一平方メートル当たり八、〇五〇千円となります。
上告人の鑑定においては、5つの取引事例から求めた比準価格を合計し、5で割ることによって平均値を求め、それを取引事例比較法による比準価格としておりますので、合計し5で割ってみますと、一平方メートル当たり九、〇〇七千円となりますが、取引事例Bについて標準化補正をしなかった場合の比準価格は八、九三〇千円/m2でありますので、乖離率はわずか一%であります。
また最終的な鑑定評価額は、取引事例比較法によるウエイトを七十%、収益還元法によるウエイトを三十%として求めておりますので、これに当てはめてみますと、九、〇〇七×〇・七+六、九四一×〇・三=八、三八七千円/m2であり、当初の鑑定評価額である八、三三三千円/m2とほとんど変わらず、充分、許容範囲の枠内に入っております。
・時点修正率について、周辺都基準地価格の過去一年間の下落率(十七から十八%)及び地価公示価格の下落率(約二十%)を大幅に上回る月間マイナス2.5%(年間マイナス30%)を設定し、その具体的根拠を特段示していないという点について
時点修正率とは変動率のことであります。甲第七十四号証国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一著「売買地価を見極める」のとおり、千代田区神田司町2―7―6、千代田5―19の土地の場合の基準地価格と時価の推移は上告人の地裁準備書面(第四回)別表・1のとおりであります。
この基準地における平成四年一月から平成五年一月までの基準地価格の変動率は、四、八〇〇÷六、二〇〇―一ですからマイナス二二・五パーセント(月間マイナス一・九パーセント)となりますが、平成三年十月から平成四年十月までの時価の変動率は、四、〇〇〇÷六、二〇〇―一ですから、マイナス三五・五パーセント(月間マイナス三・〇パーセント)となります。
甲第七十四号証「売買地価を見極める」第二章のとおり、国土庁地価公示評価員及び不動産鑑定士の大野幸一氏は時価の把握方法は、ある一つの公示地または基準地の時価を求め、実勢倍率=時価÷公示価格又は基準地価格として、対象となる公示地の公示価格に実勢倍率を掛ければ簡単に対象となる公示地の時価が求められるとしております。
千代田区神田司町2―7―6、千代田5―19基準地も、千代田区二番町3―4、千代田5―15公示地も、同じ千代田区内の同じ商業地でありますので、時系列的な時価の推移はほぼ同じであると断言しても差し支えありません。
従って、千代田区神田司町2―7―6、千代田5―19基準地の時価の変動率は、マイナス三五・五パーセント(月間マイナス三・〇パーセント)を記録しておりますので、上告人の鑑定が変動率を月間マイナス2.5%(年間マイナス30%)と査定しても、逆に少なすぎるくらいで、何ら問題とはなりません。
ニ、まとめ
<1>税務署鑑定について
・公示価格を基準とした価格について
前述のとおり、公示価格の性格上、算出する上で採用される取引事例は価格の面で中庸を得た売買事例が基準となるので、時価が下げ相場の時に指標となる一部の安めの売買事例はカットされることとなり、また売買事例が無い場合の指標となる仲介業者の仲介見込み気配値は当然採用されないため、公示価格と時価との間に開差が生ずる。
通常、開差が解消されるためのタイムラグは二年間かかることから、バブル崩壊後、地価が急落している都心商業地については、公示価格を基準とした価格は相続税法に定める時価の基準とはならない。
・収益還元法による収益価格について
甲第九十四号証不動産鑑定評価要説のとおり、対象不動産が更地の場合、当該土地に最有効使用の賃貸用建物等の建築を想定する場合の総収益は、当該土地及び建物等の複合不動産が将来生み出すであろう総収益を予測し、適正に求めなければならないと規定しておりますので、仮に平成四年十月三十日から建設を計画した場合の竣工時期は平成六年七月頃となります。平成六年七月頃の中規模ビル(有効床面積が五十から百坪のビル)の適正賃料は一平方メートル当たり七、六一六から六、八六三円でありますので、税務署鑑定の一平方メートル当たり一〇、〇〇〇円は高額すぎることになります。仮に、一平方メートル当たり八、〇〇〇円とした場合の収益価格は別紙・1のとおり約二十二億円でありますので、上告人の申告額はそれを上回っており何ら問題はありません。
・取引事例比較法を採用して求めた価格について
甲第九十四号証不動産鑑定評価要説のとおり、取引事例比較法によって比準価格を求める際に採用する取引事例は、不動産取引市場に相当期間存在したものでなければならないと規定しておりますが、税務署鑑定において採用された取引事例は全てについて市場に存在した形跡は全くありませんでした。従って、これらの取引事例から正常価格を求めることは本来出来ません。
百歩譲って、税務署鑑定において採用された取引事例について適切に事情補正、時点修正、個別要因補正、地域要因補正をした結果は別紙・3のとおりであり、いずれも上告人の申告額はそれを上回っており何ら問題はありません。
乙第一号証(税務署鑑定)は相続税法第二十二条の時価の定義に対し違法な鑑定評価書であります。
<2>上告人の鑑定について
・取引事例Bの標準化補正について
取引事例Bについて規模が小さいことによる個別要因補正をした結果は一平方メートル当たり八、三八七千円でありますが、ストライクゾーンの下限である一平方メートル当たり六、六九五千円を上回っているので、相続税法に対し適法であります。
・月間マイナス2.5%(年間マイナス30%)の下落率について
前述のとおり、千代田5―19商業基準地に於ける時価の下落率は月間マイナス3.0%(年間マイナス36%)であり、特に問題はありません。
・上告人の鑑定の収益還元法における適正賃料について
前述のとおり、平成六年七月頃の九段・飯田橋地区の小型ビル(有効床面積が二十から五十坪のビル)の賃料は一平方メートル当たり五、九四五から五、一二八円でありますので、上告人の鑑定に於ける一平方メートル当たり五、五〇〇から五、七〇〇円は適正であります。
以上のとおり、税務署鑑定は相続税法第二十二条に対し違法な鑑定評価書であり、上告人の鑑定評価書は適法なものでありますので、原判決は間違った判断をしております。
ホ、本件価額の適否について
被上告人は、
・被上告人が路線価方式で算出した価格は、千代田区二番町三―四に所在する公示地の平成五年一月一日付けの公示価格から求めた価格を下回っているので合法である。
・被上告人が路線価方式で算出した価格は、被上告人が(財)日本不動産研究所に依頼した不動産鑑定評価書の鑑定評価額を下回っているので合法である。
とし、課税庁としての立証責任を果たしていると主張しており、原判決もこれを認めておりますが、前述の理由により立証責任を果たしているとは言えません。逆に、
・千代田区二番町三―四に所在する公示地の平成五年一月一日付けの公示価格から求めた価格は、相続開始時点の時価を上回っているので、相続税法第二十二条に違背しています。
・被上告人が(財)日本不動産研究所に依頼した不動産鑑定評価書の鑑定評価額は、相続開始時点の時価を上回っているので、相続税法第二十二条に違背しています。
原判決は、裁判官の自由心証形成によって被上告人の主張を容認し、上告人の請求を棄却致しましたが、裁判官の自由心証形成に当たっては、単に自由に心証を形成してよいというものではなく、自ずと判断規準が存在してしかるべきであり、本事件においては租税法の基本原則である応能負担の原則がこれに当たると思います。
甲第六号証田口豊著「新版相続税法」のとおり、評価の原則は時価主義であるが、その時価主義の運用に当たっては市場性に富んでいる財産と市場性の少ない財産とでは、自ずから差異が生じてくる。即ち、市場性に富んでいる財産の取引に際して形成される価額はその時点において常に一つであり、その価額そのものを財産の評価額とすることができるが、市場性が少なくなるにつれ同一物であっても売買に当たり形成される取引価額がまちまちとなり、同種同型のものであっても売買当事者間の需給関係その他の要因から倍、半分の差異を示すこともあり得る。
従って、課税財産の評価としても、市場性が少なくなるにつれ漸次時価としての適格性が低下するので、幅のある時価については評価の危険性を織り込み安全度をみた比較的下値の価額(時価の幅の下の方のかための価額)で評価するのが原則であるとしております。
不動産の場合、市場性の少ない財産の代表でありますから、評価方法に特別の違法性がない場合には、下値の価額を採用することが評価の原則になっておりますので、原判決はこの原則に則していないこととなります。
租税法の基本原則は、実際の価額を課税標準とし、それに応じた税額を国民は負担することという応能負担の原則が基本通念でありますので、グラフ・1のようにバブル崩壊後、地価が急落している都心商業地においては、応能負担の原則に照らして、評価方法に特別の違法性がない場合には下値の価額を採用することがこの原則に則していると思いますので、原判決はこの基本原則に違背しております。
応能負担の原則に違背しているということは、憲法第十四条、同第二十五条、同第二十九条に違憲していることにも繋がります。
ヘ、相続開始時点における正しい時価の求め方について
<1>規準としての公示価格について
上告人は平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格を算定する基となった二つの不動産鑑定士や不動産鑑定士補の鑑定評価書の中で使われている取引事例は、「特定少数の当事者間における相対取引」しか存在しなかったのではないかと疑っております。
上告人が近隣の商業地の取引事例を調べた所、
・大手デベロッパーが一団の土地をするために近隣を買収した。
・事業拡張目的で地主が隣地を買収した。
・決算対策の為の親子間売買や関係会社間売買。
などばかりであり、相続税法上の時価の定義である「不特定多数の当事者間における自由な競争取引」の取引事例は発見できませんでした。
従って、平成四年十月三十日時点の千代田区二番町五―五に所在する宅地の相続税法上の時価の検証方法としては、
・平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格を算定する基となった二つの不動産鑑定士や不動産鑑定士補の鑑定評価書の中で使われている取引事例が、「特定少数の当事者間における自由な相対取引」なのか、又は「不特定多数の当事者間における自由な競争取引」なのかを検証し、
・もし「不特定多数の当事者間における自由な競争取引」でないなら、「不特定多数の当事者間における自由な競争取引」ならばいくらで売買が成立したのかを、平成四年度と平成五年度における都心商業地の数多くの「不特定多数の当事者間における自由な競争取引」の取引事例から推定する。
この方法が、最も的確に相続開始時点での時価を推定できると思います。
そこで、上告人は東京地裁において平成八年八月五日付けで民事訴訟法第三百十九条に基づき国土庁土地局地価調査課が所持している平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格を算定する基となった二つの不動産鑑定士や不動産鑑定士補の鑑定評価書それぞれ各一通計二部の文書取り寄せを申し立てました所、それは却下されず、採用されましたが、東京地方裁判所民事第二部書記官阪本真理氏によりますと、先方からの返事では、これらの鑑定評価書は既に廃棄処分され、もうこの世の中には存在しないとのことでありました。
しかし、国家が定める文書保管規定では一定期間の文書保存義務がありますので、虚偽の報告をしていると思います。平成七年十二月二十七日に国土庁土地局地価調査課公示係長池島正伸氏に面会を求め、麹町税務署の更正決定の唯一の理由は、平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格から求めた価格は、麹町税務署が路線価方式で算出した価格を上回っているからであると主張しているだけなので、平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格を算定する基となった二つの不動産鑑定士や不動産鑑定士補の鑑定評価書それぞれ各一通計二部を見せていただけないか依頼致しました所、「お見せしたいのはやまやまだが、守秘義務があり、お見せすると私自身がクビになってしまう。裁判所からの命令があれば、必ず出す。」と言われました。
確かに、原判決のとおり公示価格は正常価格を公示するとなっているものの、また、確かに憲法第三十条に定めるとおり、国民は法律に基づいた納税の義務を負うとなっているものの、上告人は前述の理由により平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格は、相続財産の評価の規準として信頼性に欠けると思っておりますので、実際に公示価格を算定する基となった不動産鑑定士の鑑定評価書を分析して、それが本当に正常価格であるかどうか検証し、相続財産の評価の規準として的確であるかどうか確認するまでは、更正分の相続税を納付しなければならないという義務感は全く湧き上がってまいりません。裁判は真実の追求にあると思います。真実の追求をしないで、法律上公示価格は正常価格であるとご判断されましても、それは架空の価値に対して課税するだけであります。上告人は真実を知りたいだけであり、裁判所としても真実をお知りになりたいと思います。真実さえ知れば、それに見合った税金を納付しなければならないのは、国民として当然の義務であります。
従って、少なく共、裁判所から国土庁土地局地価調査課へ平成五年一月一日付けの千代田区二番町三―四に所在する公示地の公示価格を算定する基となった二つの不動産鑑定士や不動産鑑定士補の鑑定評価書それぞれ各一通計二部の提出命令を出していただき、それが正常価格であるかどうか検証するよう本事件を東京地方裁判所へ差し戻していただきたくお願い致します。
<2>新たな不動産鑑定評価について
判決文によれば、当該取引に特殊な価格形成要因による影響を修正することによって、これを「時価」の算定に当たって斟酌することができるとしています。ここで、特殊な価格形成要因による影響とは判決文後述のとおり事情補正のことを指していると思われるが、甲第八十七号証土地価格比準表のとおり事情補正については公式の算定方法は示されておらずいきおい担当不動産鑑定士の主観に頼らざるを得ないこととなります。
判決文によれば、時価の算定は売主が宅地建物取引業者に土地の売却を依頼し、業者が広告等により広く一般に公開して買い主を募ったような取引事例に基づけば、一般的に適切な時価を算定することが出来るとしているので、そのような取引事例に基づき、甲第八十七号証土地価格比準表等によって適切に修正していけば、相続開始時点に於ける正しい時価を求めることができることとなります。
業者が広告等により広く一般に公開して買い主を募ったような取引とは、建設大臣の指定する首都圏不動産流通機構(通称…レインズ)を通じた取引が一般的であり、甲第九十号証のとおり千代田区二番町周辺では次の三つの取引事例を検索することができました。
取引事例・一 所在地…千代田区三番町十八―十二
用途…第一種住居地域 建蔽率…六十 容積率…四百
接道…北 三m公道
面積…一二〇・一三m2
成約価格…一億四千八百万円 一m2当たり百二十三万二千円
成約日…平成八年十月十八日
取引事例・二 所在地…千代田区三番町
用途…商業地域 建蔽率…八十 容積率…五百
接道…北 十一m公道
面積…五三・八九m2
成約価格…二億円 一m2当たり三百七十一万一千円
成約日…平成四年八月十七日
取引事例・三 所在地…千代田区平河町二丁目十―一
用途…第二種住居地域 建蔽率…六十 容積率…四百
接道…東 五m公道
面積…二六五・二八m2
成約価格…四億六千万円 一m2当たり百七十三万四千円
成約日…平成六年四月四日
また、物納財産の一般公開入札も売主と特別の利害関係を持たない不特定多数の第三者の買い主を募集する行動と解釈されますので、次の一般公開入札による取引を加え四つの取引事例から、時点修正、地域要因補正、個別要因補正を行えば相続開始時点に於ける正しい時価が求められることになります。
取引事例・四 所在地…千代田区一番町四―五十四
用途…商業地域 建蔽率…八十 容積率…五百
接道…南 十一m公道 間口…十八m 奥行き…二十五m
面積…四六二m2
成約価格…不明(被控訴人へお問い合わせ方願います) 一m2当たり単価…不明
成約日…平成八年三月六日
買い主…三葉地所(株)
平成九年一月二十三日午後一時十五分、東京地方裁判所民事第二部富越和厚裁判長は主文読み上げの後、「原告の鑑定評価は低すぎ被告の鑑定評価は高すぎる」と発言されましたが、原判決にはこの発言内容が全く反映されておりません。従って、少なくともこの発言内容を具現化する意味からも、これら四つの取引事例等を基に再度不動産鑑定評価をやり直すよう、本事件を東京地方裁判所へ差し戻していただきたくお願い致します。
二、地価急落局面における相続開始時点の相続税法第二十二条に定める時価について
被相続人が死亡し、相続人たちが土地の売却を決意した場合の手順は次のとおりとなります。
<1>不動産仲介業者へ土地の売却を依頼する。
<2>不動産仲介業者が正常な近隣の取引事例を基準地として、売却対象地について地域要因補正や個別要因補正を行い、査定価格を求める。
<3>相続人たちは相続税の路線価評価額等を念頭に於いて売り希望価格を考え、不動産仲介業者の査定価格を検討し、仲介業者と相談の上、売出し価格を決める。
<4>不動産仲介業者は物件のパンフレットを作成し、需要が見込まれると思われる売却対象地の隣地所有者や近隣の企業やデベロッパーを訪問し、土地の購入を勧誘したり、不動産仲介業者が独自に保有している情報誌や業界紙に物件を掲載し、見込みユーザーへ情報を流したり、他の多くの不動産仲介業者に物件パンフレットを蒔いて買い希望の顧客を募ったり、建設大臣の指定する流通機構(通称…レインズ)へ物件を登録し、広く買い手を募ったりして、取引の成立に向けて全力を尽くす。
<5>そのような不動産仲介業者の努力の成果により買い希望客が現れ、買付証明書が不動産仲介業者を通じて相続人たちの元へ届く。
<6>相続人たちは買付価格と売り希望価格を比較検討し、相続人たちの路線価評価額よりも高く、仲介手数料や印紙代等の経費を払っても余裕がある場合には通常承諾し、売渡承諾書を仲介業者を通じて買い手に渡す。逆に買付価格が路線価評価額を下回っているなど不満足な場合には、買い手との再交渉を仲介業者へ促したり、場合によってはキャンセルし、別の買い手を探すよう仲介業者へ依頼する。
<7>漸く成約価格について買い手と相続人たちとの間で意思が一致した段階で売買契約が成立し、契約が締結される。通常、売買契約成立時点では、買い手は手付金として成約価格の二割程度を売り手に渡し、買い手はその売買契約に基づいて金融機関へ融資申込みを行い、残代金の手配をするので、残代金の支払いと物件の引渡の同時履行は売買契約締結時点の約一カ月後となる。
<8>売買契約締結時点の約一カ月後、残代金の支払いと物件の引渡の同時履行を行い、所有権移転登記を行って取引は終了する。
この一連のプロセスに要する時間は、早くて半年間、通常約一年間かかるものであります。
また、相続が発生し、相続人たちが土地の売却を不動産仲介業者へ依頼する場合には、仲介業者へ「土地の登記名義人は死亡しており、売り主等が相続人ですが、遺産分割協議が未了です」と申し述べねばなりませんが、仲介業者は遺産分割協議が不調に終わった場合の買い手の迷惑を考慮して、その時点では買い手を募集する行動を行わないのが通常であり、「遺産分割協議を終了し、所有権を特定の相続人へ移転してから再度土地の売却をご依頼下さい」と仲介業者は相続人たちへ言います。
通常相続が発生しますと、まず葬儀を執り行い、四十九日間喪に服して故人の冥福を祈り、その後遺産分割協議について話し合い、最終的に遺産分割協議書として纏められます。
仮に四十九日の法要後、一カ月後に遺産分割協議が成立したとした場合、遺産分割協議書を登記原因として特定の相続人へ所有権移転登記を行い、その後仲介業者へ土地の売却を依頼したとすると、最終的に第三者の買い手に所有権が移転するのは、被相続人の死亡時点から早くて九カ月後、通常十五カ月後となります。
戦後四十年間バブル絶頂期までは土地は必ず被相続人の死亡時点よりも値上がりしておりましたので何ら問題ありませんでしたが、バブル崩壊後グラフ・1のように地価が右肩下がりに急落している現状においては、判決文のように相続開始時点を被相続人の死亡時点とする考え方は、相続人たちにとって過酷すぎると思います。
この考え方は、立法時において地価は必ず横這いか又は値上がりするものという思想が前提となっていると考えられ、今回のようなバブル崩壊によって地価が大幅に値下がりするというような状況は予定していなかったのではないかと思います。相続税法第二十二条では、確かに被相続人の死亡時点を相続開始時点とするとなっておりますが、時価の算定に当たっては意思決定期間と市場滞留期間を考慮しなければ、租税法の基本原則である応能負担の原則に反することとなります。応能負担の原則に反するということは、憲法第十四条及び同第二十五条及び同第二十九条に違憲していることになります。
以上
付属書類・一 平成五年三月二十六日付け読売新聞抜粋 一枚
付属書類・二 平成五年三月二十九日付け納税通信抜粋 一枚
付属書類・三 平成五年七月三十一日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・四 平成五年九月十三日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・五 平成五年十月四日付け納税通信抜粋 一枚
付属書類・六 平成五年十月一十六日付け千代田週報抜粋 一枚
付属書類・七 平成六年一月十三日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・八 平成六年六月十八日付け毎日新聞抜粋 一枚
付属書類・九 平成六年六月二十八日付けエコノミスト抜粋 六枚
付属書類・十 平成六年八月十八日付け産経新聞抜粋 一枚
付属書類・十一 平成六年八月十八日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・十二 平成六年八月十八日付け朝日新聞抜粋 一枚
付属書類・十三 平成六年九月二十日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・十四 平成七年三月二十四日付け朝日新聞抜粋 一枚
付属書類・十五 平成七年三月二十四日付け日経産業新聞抜粋 一枚
付属書類・十六 平成七年三月二十四日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・十七 平成七年八月十八日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・十八 平成七年八月十八日付け日本経済新聞抜粋 一枚
付属書類・十九 平成七年九月一日付け住宅新報抜粋 一枚
付属書類・二十 東洋経済新報社刊「土地神話のゆくえ」抜粋 十七枚
コペルニクス曰く「それでも地球は丸い」……いずれ歴史によって証明される。
(付属書類省略)
表・1
千代田区二番町3-4公示地の時価の推移
<省略>
平成4年10月30日時点に於ける千代田区二番町5-5の推定時価
=平成4年10月30日時点の実勢路線価*奥行低減補正率*容積補正率
={8,384+(13,234-8,384)*2/12}*0.93*(1-0.021)=8,369≒8,333
グラフ・1 千代田区二番町3-4公示地に於ける
公示価格、路線価及び時価の推移
<省略>
グラフ・2 千代田区二番町3-4に所在する公示地の公示価格と路線価
<省略>
・平成4年10月30日の路線価=11,520-(11,520-9,200)×10/12
=9,586千円/m2
・千代田区二番町5-5に所在する=9,586×奥行低減補正率×容積調整率宅地の平成4年10月30日時点=9,586×0.93×0.979
の路線価方式による評価額=8,727(千円/m2)
別紙・1
月額賃料が8,000円/m2の時の直接法の場合の収益還元価格
1.年間収入査定表
<省略>
2.収益還元法による収益価格(円)
<省略>
別紙・2
乙第一号証 九段三丁目の事例の収益還元価格
1.年間収入査定表
<省略>
2.収益還元法による収益価格(円)
<省略>
3.建物価格
1m2当たりの建設費 420,000円/m2
建物延べ床面積 601.08m2
建物価格 252,000,000円
4.総費用
<省略>
別紙・3
税務署鑑定の取引事例比較法の修正値
<省略>